地域の話題

「えひめあやめ」について

株式会社 精工コンサルタント
佐々木 義文

「国指定天然記念物」として、日本国内に六ヶ所現存する『えひめあやめ自生地』の内、佐賀県佐賀市帯隈山山麓に自生する『えひめあやめ』とそれを保存する為の活動をなされている、地域の方々についてご紹介させていただきます。

1.『えひめあやめ』とは

 『えひめあやめ』は、大陸系の植物で、中国・朝鮮半島を始め日本では、中国・四国と九州の一部に限って自生しています。
 はるか昔、十数万年前から何回か襲った氷河期に、日本列島は大陸と陸続きになり、動植物は南下しました。
 『えひめあやめ』は、その中の一つで「大陸系遺存植物」の南限にあたるとされ、学術上貴重な植物です。
 茎の長さ(高さ)は7センチから10センチと短く、紫色の可憐な花を咲かせる希少植物で、和名は「誰故草(たれゆえそう)」と呼ばれております。

えひめあやめの自生状況 えひめあやめ近景
写真1『えひめあやめの自生状況』写真2 『えひめあやめ』の近景
えひめあやめ近景 えひめあやめ近景
写真3 『えひめあやめ』の近景写真4 『えひめあやめ』の近景

2.『えひめあやめ』を保存する活動

 この稀少植物の自生地である、佐賀市帯隈山山麓の『えひめあやめ』保護を目的とし、地域の各種団体が協力し、「久保泉町天然記念物えひめあやめ自生南限地帯自然環境保全会」を組織され、株際の草刈等ボランティア活動による保全活動はもとより、『えひめあやめ』の可憐な花の開花時期に合わせて『えひめあやめまつり』を開催されております。
 また、同会においては、来場者向けのパンフレット「えひめあやめのお話」を作成されると共に、案内マニュアルも作成されながら、『えひめ あやめ』に対する広報と保存に努められております。
 同会が作成され、来場者に配布されておりますパンフレット「えひめあやめのお話」の一部を、ご紹介させていただきます。

えひめあやめのお話 ようこそ えひめあやめまつりへ

 この山野辺の緑豊かな帯隈山の自生地にようこそお越しいただきありがとうございます。「えひめあやめ」も、皆さんとの出会いを、さぞや喜んでいることでしょう。
 昔、勅撰玉葉和歌集(1312年)撰者であった大納言藤原為兼という方が、たまたま、この花がところせましと咲き乱れた山ふところ(広島東部)を訪れて、つくづくとご覧になりながら「人けのないこんな谷あいに、誰れ故にかくも麗しい色の可憐な花が咲くのだろうか」と何度も口ずさまれ、誉めそやされたとか。(芸藩通志 訳文より)
 以来、この花を「誰故草=たれゆえそう」と呼ぶようになったと伝えられています。


誰故に乱れそめきし花なれや
みちのしりへの里ならなくに (西備名区)
 (へき地)   (ではないのに)

 ここ久保泉では、大正時代まで「雛あやめ」「姫あやめ」「一寸あやめ」と呼び、ワラビを採りに来てはこの花で花遊びをしたものです。
 前の湖には、鴨の群れやオシドリも見かけます。山のウグイスも上手に鳴くようになって、皆さんを歓迎してくれているようです。

ふるさとの帯隈山のうぐひすは
いまも鳴くなりそのたかむらに(中島哀浪)

 皆さんも今日一日、ごゆっくりとこの自然の中で、「えひめあやめ」を眺め、この花と語り、この花を描き、心にこの花を宿し、この花を守り育ててきた久保泉の方々と心を温めあってください。

「えひめあやめ」とはどんな植物なのでしょう?

 この植物は、中国・朝鮮半島を始めわが国では、西日本に限って自生しています。
 はるか昔、十数万年前から何回か襲った氷河期に、日本列島は大陸と陸続きになり、動植物は南下しました。この植物はその中の一つで「大陸系遺存植物」の南限にあたるとされ、学術上貴重な植物です。
 明治32年、日本随一の植物学者 牧野富太郎博士は愛媛県の報告を認め、地名をとって「エヒメアヤメ」と命名されました。ところが既に、世界植物学会では洋名の登録があり、我が国でも「誰故草」という優雅な呼び名がある事を知られ、明治38年に「誰故草(別名エヒメアヤメ)」と改名されました。それ以来、学術書も辞書もそのように改名されたのです。
 しかし、大正14年当時の内務省は、国内の自生地5ヶ所を「えひめあやめ自生南限地帯」として、国の天然記念物に指定したため、「えひめあやめ」の名が広く使われています。
 この花の自生地は、人家に程遠くない「里山」で、春先の草は刈り取られて牛馬の飼料に、夏草は稲田の狭み肥に、そして秋草は小積みして堆肥にと、たびたび刈り取られる山の麓の丘陵地に限られています。刈り取りが少なくて、笹や?、葛に覆われだすと次第に小さくなり、やがて消滅します。すぐ隣の日の隈山や大分県の杵築・大熊山の自生指定地が昭和37年、昭和46年に解除になったのも、雑草や小潅木が繁り風通しが悪くなり日が当らなくなったためです。ここ久保泉でも一時10数株に減少しましたが、いろんな方が60年間、調査研究され守り育ててくださり、ご覧のとおりたくさんの花を咲かせるようになりました。
 小さくてかわいい上に、貴重植物で数少ない珍しい花だと聞き、掘り取って庭先に植える人がいますが3年目には必ず枯れてしまいます。この植物は乾燥に適応しその根を深く深く延ばしています。そして根の先端は『貯留嚢(のう)』と言う小豆の4分の1くらいの粒々をつけ、水分や養分を蓄えているのです。その大切な根を断ち切られるので枯れてしまいます。一年目はよくても2年目・3年目に必ず枯れてしまうのです。
 それよりも、この山を訪れ小鳥の鳴き声を聞きながら自然の空気を味わい、みんなで眺め花と語り、守り育ててきた久保泉の人々と心を温め合いましょう。この花も、年に1度のみなさまとの出会いを喜んで待っています。

開催場所 佐賀市久保泉町川久保(帯隈山山麓エヒメアヤメ自生地)川久保交差点から東へ600㍍、そこから北へ1キロ㍍。※土日は大変混み合います。バスなどをご利用ください。
交通 佐賀市営バス、佐賀駅バスセンター1番乗場「伊賀屋・清友病院」行。期間中は「えひめあやめ入口」臨時バス停下車、徒歩10分

※(注)えひめあやめパンフレットより転記

 こんな素敵な説明パンフレットと、地域の方々の心温まるボランティアによる現地の案内がなされる、『えひめあやめまつり』が、今年も4月6日(金)~15日(日)までの10日間、桜(ソメイヨシノ)の開花時期に合わせ開催されました。

『えひめあやめまつり』の風景 『えひめあやめまつり』の風景
写真5 『えひめあやめまつり』の風景  写真6 『えひめあやめまつり』の風景

 今年の『えひめあやめまつり』は、終わりましたが、小さくて可憐な、青紫色の花『えひめあやめ』に逢いに来ていただき、地域の方々の保全活動を見て、感じていただければ幸いと思い、今回「地域の話題」としてご紹介させていただきました。

 今回の寄稿に際し、「久保泉町天然記念物えひめあやめ自生南限地帯自然環境保全会」の関係者より、貴重な資料と写真を提供して頂きました事を、改めてお礼申し上げます。

(平成24年5月11日掲載)