地域の話題

ヤマの記憶

アジアエンヂニアリング株式会社
永尾 聖一

2011年5月ユネスコ「世界記憶遺産」に、国内ではじめて炭鉱記録画家・山本作兵衛(1892~1984)の絵画や日記などが登録された。当時の炭坑や日々の暮らしを細々とつづった記録を残し、郷土の記憶を現代の私たちに共有させてくれた「山本作兵衛」と、ユネスコ「世界記憶遺産」事業を紹介したい。

1. 作兵衛の生い立ち

山本作兵衛
▲山本作兵衛(1892~1984)
橋本正勝さん撮影

 明治25年(1892)5月17日、福岡県嘉穂郡笠松村鶴三緒(現飯塚市)に生まれる。
7歳のころより父親につれられ兄弟と共に坑内に下り、炭車押しなどを手伝いながら小学校を卒業後、明治39年、15歳より山内炭坑(現飯塚市)で坑夫として働き出す。その後、筑豊地区の各炭坑で採掘員や鍛冶工として働きながら、手帳に日々の記録やスケッチ等を残していく。
昭和30年の位登炭坑(田川市)の閉山まで炭坑で働き、福岡県田川市にある長尾本事務所に夜警宿直員として勤務する60代半ば頃より、「子や孫に炭坑(ヤマ)の生活や人情を残したい。」と絵筆をとり、1000点以上の作品を残した。
昭和59年(1984)12月19日、老衰のため92歳で死去した。

2. 世界の記憶とは?

山本作兵衛炭坑記録画
▲山本作兵衛炭坑記録画
(田川市石炭・歴史博物館所蔵)

 世界の記憶/世界記録遺産(Memory of the World)は、ユネスコ(United Nations Educational,Scientific and Cultural Organization)が主催する、不動産遺産である「世界遺産」(World Heritage)、無形文化遺産である「人類口伝及び無形遺産傑作」(Masterpiece of the Oral and Intangible of Humanity)と並ぶ、三大遺産事業の一つである。
歴史的文書などの記録遺産は、人類の文化を受け継ぐ重要な文化遺産であるにもかかわらず、毀損されたり、永遠に消滅する危機に瀕している場合が多い。このため人類が長い間記憶して後世に伝える価値があるとされる書物などの記録物(動産)を、最新のデジタル技術を駆使して保全し、研究者や一般人に広く公開することを目的とした事業である。
過去に「アンネの日記」のオリジナルや「ベートーベンの直筆楽譜」などが登録されている。

3. 記録遺産登録までの経緯

山本作兵衛炭坑記録画
▲山本作兵衛炭坑記録画
(田川市石炭・歴史博物館所蔵 )

 田川市は当初、市内に残る旧三井田川鉱業所伊田竪坑櫓など炭鉱遺産について「九州・山口の近代化産業遺産群」の一環として世界遺産登録を目指していた。
2009年10月に選考から漏れたが、関連資料として紹介した作兵衛作品の記録画は、現地調査した海外の専門家らから高く評価された。
このため、作兵衛作品を保管する田川市と福岡県立大学は、世界の記憶(世界記録遺産)登録を目指すこととし、田川市が所蔵する福岡県指定有形民俗文化財584点を含む絵画585点と関連資料(日記6点、雑記帳や原稿など36点)と、山本家が所有し同大学が保管する絵画4点と関連資料(日記59点、原稿など7点)を合わせた計697点について、市と大学共同で2010年3月、ユネスコ本部(パリ)に推薦書を送付した。 そして2011年5月25日に国内初の登録を受けることが決まった。

4. 作品の特徴

 作兵衛の作品は、一人の元炭坑夫が自らの体験をもとに、明治・大正から昭和初期にかけての炭坑の姿を、驚くべき正確さで克明に描かれている。
人物の表情などは簡素で平板ながらも、そこには炭坑労働経験者でしか描くことの出来ない日常や心構えなどを墨画や水彩画などで情緒豊かに描かれており、1枚の絵として驚くべき生々しさを有している。

5. 作品を見るには

歴史博物館
▲田川市石炭・歴史博物館
(田川市石炭・歴史博物館提供)

 平成23年9月17日より平成24年1月9日までの期間、田川市石炭・歴史博物館の第2展示室にて、世界記憶遺産登録記念原画特別公開 『山本作兵衛コレクション展』が開催されている。
その他、飯塚市の旧伊藤伝右衛門邸や飯塚市歴史資料館、北九州市の長崎街道木屋瀬宿記念館 みちの郷土史料館などでも見ることができる。

参考文献:
・ 炭坑(ヤマ)の文化 - ヤマの文化を見つめた画家 田川市HP
(http://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/tankoubunka/page_327.html)
・ 施設紹介 [ 文化施設 ] > 田川市石炭・歴史博物館 田川市HP
(http://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/bunkashisetu/page_150.html)
・ 山本作兵衛 Wikipedia
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E4%BD%9C%E5%85%B5%E8%A1%9B)
・ 世界の記憶 Wikipedia
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E8%A8%98%E6%86%B6)

(平成23年12月16日掲載)